現パロひじかど
共寝をすると、夜半にふと隣で身を起こす衣擦れを聴くことがある。
普段は寝息にしろ鼾にしろ、身動ぎにしろ、寝ている間にも生き生きとした男だが、そう云う時はひどく気配が薄い。それですぐにそれとわかる。
そこに明治の頃の門倉がじっと座して、眠る私を覗っている。暫く私の呼吸を確かめて、それからごく静かに細く息を吐く。
そのまままた寝具に潜り込むか、そっと抜け出そうとするか。後者ならば、離れようとする身体を捕えて床に引き戻す。
そういった際の門倉の手足は季節を問わず冷たく、まるで幽鬼の其れだ。
抱き込んでいると少しずつ互いの体温が馴染んで、彼は死人から生者に返る。
そのまま眠って朝になり、いつものように挨拶を交わす朝餉の卓は何の変わりばえも無く、何事も無かった顔をして門倉はのらくらと笑っている。
良く目を凝らさねばそれとわからぬほどほんの微かな目の縁の朱に、成る程これは相変わらずの狸よと、毎度私はほんの少し可笑しくさみしく思うのだ。
初出2024.5.17
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